二次障害・併存障害

二次障害とは

 子どもが抱えている困難さを周囲が理解して対応しきれていないために、本来抱えている困難さとは別の二次的な情緒や行動の問題が出てしまうものを、二次障害といいます。それは、心理的な要因から起こるもの、身体的にも影響を及ぼすものなどさまざまです。また、軽度発達障害は単独障害のみならず、PDDとADHD、LDとADHD、PDDとLD というように軽度発達障害同士の合併や、二次障害などから派生した別の症状・障害と併存することも多いのが現状です。このページでは、軽度発達障害をもつ子どもに多いとされる二次障害や併存障害についてみていきたいと思います。

自己評価の低下

 抱えている困難さを周囲に理解してもらえないために、友達になじられたり親や教師に怒られたりなどといった失敗体験を繰り返していると、次第に自分は「ダメな子」「できない子」という思いに捉われてしまいます。「何をやってもうまくいかない」という思い、プレッシャーが強くなると、何に対してもやる気が湧いてこなくなったり、自分に対して否定的になったりと、自己評価が低下してしまいます。このような状態は、障害をもつ子どもたちにとっても決して稀なことではありません。  

自己評価が低下した状態がずっと続くと、引きこもりやうつ状態に繋がってしまいます。早めに受診し、友達関係や親子関係などの環境調整や、薬物療法などによる対応を考える必要があるでしょう。

うつ病との関連

 自己評価の低下が続く状態になると、抑うつ気分を伴います。しかし、どうしても問題行動が表に出てしまうため、うつ状態の存在が見逃されやすいこともあるようです。軽度発達障害の中でも、とりわけADHDをもつ子どもにうつ状態が認められやすいようですが、問題行動ばかり目につき、なぜ起こるのかという背景を考慮せずに怒られるといった悪循環が生じ、否定的な自己評価をしてしまいやすいからなのかもしれません。また、AD/HDの経過中に存在しているうつ状態が見逃されている可能性は否定できないそうです。

 うつ病の症状は、感情・思考・欲動といった精神面、身体面に対して出現してきます。代表的な症状は、次のようなものです。

<精神面>
・興味や関心がなくなり、楽しめなくなる
・知的活動などの能力・能率の低下
・意欲や気力、集中力がなくなる、不安

<身体面>
・食欲の増減・変化
・睡眠障害
・全身のだるさ

  また、これらの症状が朝方はひどく、夕方から夜にかけては軽くなるといった日内変動もしばし見られます。

 もし、ADHDをもつ子どもがうつ状態を併存している場合、ADHDに対する薬物療法を行ってしまうと、周囲が自分に対してどのように評価しているのかということを認識してしまうため、逆に自己評価の低下を促してしまうこともあるようです。子どもに対する的確な情報収集や観察をすることで、うつ状態の早期発見が必要です。

大うつ病エピソード 診断基準(DSM-IV-TR)

A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ二週間の間に存在し、病前の機能からの変化をおこしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分または(2)興味または喜びの喪失である。
(明らかに、一般身体疾患または気分に一致しない妄想または幻覚による症状は含まない。)

1. 患者自身の言明(例えば悲しみまたは、空虚感を感じる)か、他者の観察(例えば涙を流しているように見える)によって示される、ほとんど一日中、ほとんど毎日の抑うつ気分(小児や青年ではいらいらした気分もありうる)。
2. ほとんど一日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退(患者の言明または他者の観察によって示される)。
3. 食事療法をしていないのに、著しい体重の減少、あるいは体重増加(例えば1ヶ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(小児の場合、期待される体重増加がみられないことも考慮)。
4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。
5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主的感覚でないもの)。
6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。
7. ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある)(単に自分をとがめたり、病気になったことに対する罪の意識ではない)。
8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(患者自身の言明による、または他者によって観察される)。
9. 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないが、反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりした計画。

B.症状は混合性エピソードの基準を満たさない。

C.症状の著しい苦痛または社会的・職業的または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

D.症状は物質(例:乱用薬物、投薬)の直接的な生理学的作用または一般身体疾患(例:甲状腺機能低下症)によるものではない。

E.症状は死別反応ではうまく説明されない。すなわち愛する者を失った後、症状が2ヶ月をこえて続くか、または著名な機能不全、無価値観への病的なとらわれ、自殺念慮、精神病性の症状、精神運動制止があることで特徴づけられる。

反抗挑戦性障害


 自分にとって有益なことであっても反対したり、周囲に対して挑戦・挑発的でかつ反抗的な態度・行動を当然のようにしてしまうものを反抗挑戦性障害といいます。特に9歳前後で認められ、同年代の子どもの行動範囲の限度を明らかに超えた行動がみられます。しかし、法律に触れたり権利を侵害してしまうような行為障害はみられません。多動性障害や学習障害などとの合併がみられると、加齢に伴い後に行為障害に移行する場合(DBDマーチと呼ばれます)もあるようで、行為障害の前駆的な障害という見方もされています。
平成12年の齋藤万比古氏らが行った、ADHDをもつ子ども90人(大半が中学生まで)を対象とした併存障害に関する調査によると、ADHDをもつ子どものうち行為障害を併存する子どもは10%に伴ったのに対し、反抗挑戦性障害は大半に上ることがわかりました。また、反抗挑戦性障害と行為障害を「行動障害群」とした場合、その併存率は約70%であることがわかり、かなり高い確率で併存することがうかがえます。ちなみに、1997年の米国児童青年精神医学会発表のADHDに関する知見のコンセンサスによりますと、ADHDをもつ子どもにおける反抗挑戦性障害の併存率は50%を上限とする数字をあげているそうです。  
以上のように、 ADHDが反抗挑戦性障害を併存する場合は稀ではなく、また行為障害へと進展してしまう場合もあるため、ADHDをもつ子どもにおいて、反抗挑戦性障害の併存の有無を早めに発見することが非常に重要となります。もし、ADHDをもつ子どもが反抗挑戦性障害を合併した場合、次のような治療がなされます。

@親子関係の修復(ペアレントトレーニング)
A育児支援
BADHDに対する薬物治療
C地域ネットワークにおける、親の会などの社会的資源の活用(医療だけでなく、福祉・教育分野など多系統にわたるネットワークが必要)  

  治療が難しいとされる行為障害への進展を予防するためにも、反抗挑戦性障害の状態で治療開始が望まれます。

反抗挑戦性障害 診断基準(DSM-IV-TRより)

A.少なくとも6ヶ月持続する拒絶的、反抗的、挑戦的な行動様式で、以下のうち4つ(またはそれ以上)が存在する。
(1) しばしばかんしゃくを起こす。
(2) しばしば大人と口論をする
(3) しばしば大人の要求、または規則に従うことに積極的に反抗または拒否する。
(4) しばしば故意に他人をいらだたせる。
(5) しばしば自分の失敗、不作法を他人のせいにする
(6) しばしば神経過敏または他人からイライラさせられやすい。
(7) しばしば怒り、腹を立てる。
(8) しばしば意地悪で執念深い。
注:その問題行動が、その対象年齢および発達水準の人に普通認められるよりも頻繁に起こる場合にのみ、基準が満たされたとみなすこと。

B.その行動上の障害は、社会的、学業的、または職業的機能に臨床的に著しい障害を引き起こしている。

C.その行動上の障害は、精神病性障害または気分障害の経過中にのみ起こるものではない。

D.行為障害の基準を満たさず、またその者が18歳以上の場合、反社会性パーソナリティ障害の基準は満たさない。

行為障害

 成長とともに反抗挑戦性障害をもつ子どもの問題行動がエスカレートし、万引きなどの触法行為、人や動物に対する過度の攻撃性や暴力、重大な規則違反などがみられると、もはや反抗挑戦性障害ではなく、「非行」とほぼ同義で扱われる行為障害となってしまいます。また、ADHD→反抗挑戦性障害→行為障害の経過をたどるといった「DBD(破壊的行動障害)マーチ」がみられることもあります。さらに、ごく一部はその後、「反社会性人格障害(ASPD)」へと発展するものもみられます。
行為障害に発展するまでに、適切な理解の下で十分かつ適切な指導・療育が受けられないと、治療は困難極まりなく、また予後不良という悲しい状態になってしまいます。また、治療法も医療分野だけでは到底不可能で、福祉・教育分野や地域との関わりも大きな役目を担っているのです。

行為障害 診断基準

A.他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式で、以下の基準のうち3つ(またはそれ以上)が過去12ヶ月の間に存在し、基準の少なくとも1つは過去6ヶ月の間に存在したことによって明らかになる。
<人や動物に対する攻撃性>
(1) しばしば他人をいじめ、脅迫し、威嚇する。
(2) しばしば取っ組み合いの喧嘩を始める。
(3) 他人に重大な身体的危害を与えるような武器を使用したことがある (例:バット、煉瓦、割れた瓶、ナイフ、銃)。
(4) 人に対して残酷な身体的暴力を加えたことがある。
(5) 動物に対して残酷な身体的暴力を加えたことがある。
(6) 被害者の面前での盗みをしたことがある(例:人に襲いかかる強盗、ひったくり、強奪、武器を使っての強盗)。
(7) 性行為を強いたことがある
<所有物の破壊>
(8) 重大な損害を与えるために故意に放火したことがある。
(9) 故意に他人の所有物を破壊したことがある(放火以外で)。
<所有物の破壊>
(10) 他人の住居、建造物、または車に侵入したことがある
(11) 物や好意を得たり、または義務を逃れるためしばしば嘘をつく (すなわち、他人を「だます」)。
(12) 被害者の面前ではなく、多少価値のある物品を盗んだことがある(例:万引き、ただし破壊や侵入のないもの;偽造)。
<所有物の破壊>
(13) 親の禁止にもかかわらず、しばしば夜遅く外出する行為が13歳以前から始まる。
(14) 親または親代わりの人の家に住み、一晩中、家を空けたことが少なくとも2回あった(または、長期にわたって家に帰らないことが1回)。
(15) しばしば学校を怠ける行為が13歳以前から始まる。

B.その行動の障害が臨床的に著しい社会的、学業的、または職業的機能の障害を引き起こしている。

C.その者が18歳以上の場合、反社会性パーソナリティ障害の基準を満たさない。

<発症年齢に基づいて病型にコード番号>
312.81 行為障害、小児期発症型:10歳になるまで行為障害に特徴的な基準の少なくとも1つが発症。
312.82 行為障害、青年期発症型:10歳になるまで行為障害に特徴的な基準がまったく認められない。
312.89 行為障害、発症年齢特定不能:発症年齢が不明である。

<重症度の特定>
軽症
  診断を下すのに必要な項目数以上の行為の問題はほとんどなく、および行為の問題が他人に比較的軽微な害しか与えていない(例:嘘をつく、無断欠席、許しを得ずに夜も外出する)。
中等度
 行為の問題の数および他者への影響が"軽症"と"重症"の中間である(例:被害者に面と向かうことなく盗みを行う、破壊行為)。
重症
  診断を下すのに必要な項目数以上に多数の行為の問題があるか、または行為の問題が他人に対して相当な危害を与えている(例:性行為の強制、身体的残酷さ、武器の使用、被害者の面前での盗み、破壊と侵入)。

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